中小企業のためのクラウド移行戦略 | Azure vs AWS徹底比較とコスト削減術
はじめに
「オンプレミスのサーバーが老朽化している」「保守コストが年々増加している」「災害対策(BCP)を強化したい」—— こうした課題を抱える中小企業にとって、クラウド移行は避けて通れない選択肢となっています。
本記事では、これまで30社以上のクラウド移行を支援してきた当社の経験をもとに、中小企業に最適なクラウド移行戦略を詳しく解説します。
なぜ今、クラウド移行なのか?
オンプレミスの3つの課題
1. 高額な初期投資
オンプレミスの場合:
- サーバー機器: 300万円〜500万円
- ネットワーク機器: 100万円〜200万円
- ソフトウェアライセンス: 200万円〜
- 合計: 600万円〜900万円
クラウドの場合:
- 初期費用: 0円〜
- 月額料金のみ(従量課金)
2. 保守運用の負担
オンプレミスの運用コスト:
- 専任エンジニアの人件費: 600万円/年〜
- 機器の保守契約: 年間50万円〜100万円
- 電気代・空調費: 年間30万円〜50万円
- 合計: 年間680万円〜750万円
クラウドの場合:
- サーバー管理不要(マネージドサービス)
- 自動バックアップ
- 24時間365日の監視
3. スケーラビリティの欠如
オンプレミスの課題:
- 繁忙期に性能不足 → 顧客に迷惑
- 閑散期も固定コスト → 無駄なコスト
クラウドの利点:
- 必要に応じて自動スケーリング
- 使った分だけ課金
Azure vs AWS: 中小企業に最適なのは?
総合比較表
| 項目 | Microsoft Azure | Amazon AWS | 推奨 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 無料 | 無料 | - |
| Office 365統合 | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | Azure |
| サービス数 | 200+ | 240+ | AWS |
| 日本語サポート | ★★★★★ | ★★★★☆ | Azure |
| 料金の分かりやすさ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | Azure |
| コストパフォーマンス | ★★★★☆ | ★★★★★ | AWS |
| 学習コスト | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | Azure |
シナリオ別おすすめ
Azure を選ぶべき企業
✅ Office 365(Microsoft 365)を既に利用している
- Active Directory統合が容易
- Teamsとの連携がスムーズ
- ライセンス割引あり
✅ Windows Server・SQL Serverを利用している
- Azureが最もコストパフォーマンス良好
- Azure Hybrid Benefitで最大40%割引
✅ エンジニアのスキル習得を重視
- Microsoftのドキュメントが充実
- 日本語サポートが手厚い
AWSを選ぶべき企業
✅ Webサービス・SaaS開発企業
- Lambda、API Gatewayなど豊富なサービス
- スタートアップ向けプログラム充実
✅ オープンソース技術を活用
- Linux、PostgreSQL等のサポートが充実
- コミュニティが活発
✅ グローバル展開を視野に入れている
- 全世界33リージョン(Azureは60+)
- ただしリージョン数ではAzureが上回る
段階的なクラウド移行の5ステップ
Step 1: 現状分析と計画立案(1〜2週間)
調査すべき項目
1. 現在のIT資産
- サーバー台数: 〇台
- 各サーバーのスペック: CPU、メモリ、ストレージ
- OS、ミドルウェアのバージョン
- 稼働しているアプリケーション
2. 月間のトラフィック
- 平均PV数: 〇PV/月
- ピーク時のアクセス数: 〇アクセス/秒
- データ転送量: 〇GB/月
3. 現在のコスト
- サーバーリース料: 〇円/月
- 保守費用: 〇円/月
- 電気代: 〇円/月
- 人件費: 〇円/月
Step 2: 移行戦略の選定(1週間)
3つの移行アプローチ
1. リフト&シフト (Lift & Shift)
概要: 既存システムをそのままクラウドに移行
メリット:
- 移行期間が短い(1〜2ヶ月)
- 初期コストが低い
デメリット:
- クラウドのメリットを最大限活用できない
適している企業:
- まず素早く移行したい
- 既存システムの改修リスクを避けたい
2. リファクタリング (Refactoring)
概要: クラウドネイティブなアーキテクチャに再設計
メリット:
- コスト最適化(30〜50%削減)
- スケーラビリティ向上
デメリット:
- 開発期間が長い(3〜6ヶ月)
- 初期コストが高い
適している企業:
- 長期的なコスト削減を重視
- システムの抜本的な改善が必要
3. ハイブリッド (Hybrid)
概要: 一部をクラウド、一部をオンプレミスに
メリット:
- リスク分散
- 段階的な移行が可能
デメリット:
- 管理が複雑になる
適している企業:
- 機密情報を社内で管理したい
- 段階的にクラウド化を進めたい
Step 3: パイロット移行(2〜4週間)
推奨する移行順序
Phase 1: 非クリティカルなシステム
- 社内ポータル
- ファイルサーバー
- 開発環境
Phase 2: Webサーバー
- 公式サイト
- マーケティングサイト
Phase 3: アプリケーションサーバー
- 業務システム
- 顧客管理システム
Phase 4: データベースサーバー
- 最重要システムのDB
Step 4: 本番移行(1〜3ヶ月)
移行の実行計画
【移行タイムライン】
Week 1-2: 環境構築
- Azureアカウント作成
- Virtual Network設定
- セキュリティグループ設定
Week 3-4: データ移行準備
- データバックアップ
- 移行ツールのセットアップ
Week 5-6: 段階的移行
- 非本番環境での動作確認
- 性能テスト
Week 7-8: 本番切り替え
- DNS切り替え
- 24時間監視体制
Week 9-12: 安定化
- 問題の早期発見・対応
- チューニング
Step 5: 継続的な最適化(継続)
月次レビューの実施
確認すべきKPI:
- コスト: 予算内か?無駄なリソースはないか?
- パフォーマンス: 応答速度は目標値内か?
- 可用性: ダウンタイムはあったか?
- セキュリティ: インシデントはなかったか?
コスト最適化の7つのテクニック
1. リザーブドインスタンスの活用
通常料金との比較 (Azure Standard_D2s_v3の場合):
| プラン | 月額料金 | 年間コスト | 割引率 |
|---|---|---|---|
| 従量課金 | ¥12,000 | ¥144,000 | - |
| 1年リザーブド | ¥7,200 | ¥86,400 | 40%割引 |
| 3年リザーブド | ¥4,800 | ¥57,600 | 60%割引 |
適用条件:
- 24時間365日稼働するサーバー
- 最低1年以上の利用予定
2. オートスケーリングの設定
# Azureのオートスケール設定例
properties:
targetResourceUri: /subscriptions/{subscription-id}/resourceGroups/{resource-group}/providers/Microsoft.Compute/virtualMachineScaleSets/{vmss-name}
profiles:
- name: "Auto scale condition"
capacity:
minimum: "2" # 最小インスタンス数
maximum: "10" # 最大インスタンス数
default: "2"
rules:
- metricTrigger:
metricName: "Percentage CPU"
threshold: 70 # CPU使用率70%で scale out
- scaleAction:
direction: "Increase"
value: "1"効果:
- 繁忙期: 自動でスケールアウト → 性能を維持
- 閑散期: 自動でスケールイン → コストを30-50%削減
3. スポットインスタンスの活用
概要: 余剰リソースを格安で利用
割引率: 最大90%割引
適している用途:
- バッチ処理
- データ分析
- 開発・テスト環境
注意点:
- いつでも停止される可能性がある
- 本番環境には不向き
4. ストレージクラスの最適化
| ストレージクラス | 用途 | 月額料金/GB | 適用例 |
|---|---|---|---|
| Premium SSD | 高速アクセス必要 | ¥21 | DBサーバー |
| Standard SSD | 通常の業務 | ¥10 | Webサーバー |
| Standard HDD | 低頻度アクセス | ¥5 | バックアップ |
| Cool Storage | アーカイブ | ¥1.5 | 過去ログ |
最適化例:
- 1TBのバックアップをPremium SSD → Cool Storageに変更
- 月額¥21,000 → ¥1,500(93%削減)
5. 不要なリソースの定期削除
よくある無駄なコスト:
- 放置された開発環境
- 未使用のスナップショット
- 古いバックアップ
自動化スクリプト例:
# 7日間使用していないVMを停止
az vm list --query "[?powerState=='VM running'].{Name:name, RG:resourceGroup}" -o table | while read name rg; do
last_start=$(az vm show -n $name -g $rg --query "instanceView.statuses[?code=='PowerState/running'].time" -o tsv)
if [ $(date -d "$last_start" +%s) -lt $(date -d "7 days ago" +%s) ]; then
az vm deallocate -n $name -g $rg
fi
done6. Azure Hybrid Benefit (AHB)の活用
概要: 既存のWindowsライセンスをAzureで利用
割引率: 最大40%割引
適用条件:
- Windows Server Datacenterライセンス保有
- ソフトウェアアシュアランス契約中
7. コスト管理ツールの活用
Azure Cost Management:
- 日次でコスト推移を確認
- 予算超過時にアラート通知
- コスト最適化の推奨事項を提示
実際の移行事例
事例1: 製造業C社(従業員80名)
Before:
- オンプレミスサーバー5台
- 月間コスト: ¥450,000
移行内容:
- Azure Virtual Machines (リフト&シフト)
- Azure Backup導入
After:
- 月間コスト: ¥280,000(38%削減)
- BCP対策完了(東日本・西日本の2リージョン)
移行期間: 2ヶ月
事例2: IT企業D社(従業員30名)
Before:
- レンタルサーバー + 一部AWS
- 月間コスト: ¥200,000
移行内容:
- 完全AWSに統一(リファクタリング)
- サーバーレス化(Lambda + DynamoDB)
After:
- 月間コスト: ¥80,000(60%削減)
- 自動スケーリングで高可用性達成
移行期間: 4ヶ月
よくある質問(FAQ)
Q1: クラウド移行のリスクは?
A: 主なリスクは以下の3つです:
- ダウンタイム → 段階的移行で最小化
- コスト超過 → 事前のコスト試算と定期レビュー
- 性能劣化 → パイロット移行で事前確認
Q2: 移行にどれくらいの期間が必要?
A: システム規模によりますが:
- 小規模(サーバー1〜3台): 1〜2ヶ月
- 中規模(サーバー4〜10台): 2〜4ヶ月
- 大規模(サーバー10台以上): 4〜6ヶ月
Q3: 自社にエンジニアがいなくても移行できる?
A: 可能です。当社のような移行支援サービスを活用することで、技術的な知識がなくてもクラウド移行を実現できます。
まとめ
中小企業がクラウド移行を成功させる5つのポイント:
- Azure vs AWS - Office 365利用ならAzure、技術重視ならAWS
- 段階的移行 - リフト&シフトから始めて徐々に最適化
- コスト最適化 - リザーブドインスタンス、オートスケーリング等を活用
- パイロット移行 - 小規模から始めてリスクを最小化
- 継続的な改善 - 月次レビューで無駄を排除
重要なのは、「完璧を目指さず、まず始めること」です。
次のステップ
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