クラウド技術

中小企業のためのクラウド移行戦略 | Azure vs AWS徹底比較とコスト削減術

12 min read
AzureAWSクラウド移行コスト最適化中小企業

はじめに

「オンプレミスのサーバーが老朽化している」「保守コストが年々増加している」「災害対策(BCP)を強化したい」—— こうした課題を抱える中小企業にとって、クラウド移行は避けて通れない選択肢となっています。

本記事では、これまで30社以上のクラウド移行を支援してきた当社の経験をもとに、中小企業に最適なクラウド移行戦略を詳しく解説します。


なぜ今、クラウド移行なのか?

オンプレミスの3つの課題

1. 高額な初期投資

オンプレミスの場合:

  • サーバー機器: 300万円〜500万円
  • ネットワーク機器: 100万円〜200万円
  • ソフトウェアライセンス: 200万円〜
  • 合計: 600万円〜900万円

クラウドの場合:

  • 初期費用: 0円〜
  • 月額料金のみ(従量課金)

2. 保守運用の負担

オンプレミスの運用コスト:

  • 専任エンジニアの人件費: 600万円/年〜
  • 機器の保守契約: 年間50万円〜100万円
  • 電気代・空調費: 年間30万円〜50万円
  • 合計: 年間680万円〜750万円

クラウドの場合:

  • サーバー管理不要(マネージドサービス)
  • 自動バックアップ
  • 24時間365日の監視

3. スケーラビリティの欠如

オンプレミスの課題:

  • 繁忙期に性能不足 → 顧客に迷惑
  • 閑散期も固定コスト → 無駄なコスト

クラウドの利点:

  • 必要に応じて自動スケーリング
  • 使った分だけ課金

Azure vs AWS: 中小企業に最適なのは?

総合比較表

項目Microsoft AzureAmazon AWS推奨
初期費用無料無料-
Office 365統合★★★★★★★☆☆☆Azure
サービス数200+240+AWS
日本語サポート★★★★★★★★★☆Azure
料金の分かりやすさ★★★★☆★★★☆☆Azure
コストパフォーマンス★★★★☆★★★★★AWS
学習コスト★★★★☆★★★☆☆Azure

シナリオ別おすすめ

Azure を選ぶべき企業

Office 365(Microsoft 365)を既に利用している

  • Active Directory統合が容易
  • Teamsとの連携がスムーズ
  • ライセンス割引あり

Windows Server・SQL Serverを利用している

  • Azureが最もコストパフォーマンス良好
  • Azure Hybrid Benefitで最大40%割引

エンジニアのスキル習得を重視

  • Microsoftのドキュメントが充実
  • 日本語サポートが手厚い

AWSを選ぶべき企業

Webサービス・SaaS開発企業

  • Lambda、API Gatewayなど豊富なサービス
  • スタートアップ向けプログラム充実

オープンソース技術を活用

  • Linux、PostgreSQL等のサポートが充実
  • コミュニティが活発

グローバル展開を視野に入れている

  • 全世界33リージョン(Azureは60+)
  • ただしリージョン数ではAzureが上回る

段階的なクラウド移行の5ステップ

Step 1: 現状分析と計画立案(1〜2週間)

調査すべき項目

1. 現在のIT資産

- サーバー台数: 〇台
- 各サーバーのスペック: CPU、メモリ、ストレージ
- OS、ミドルウェアのバージョン
- 稼働しているアプリケーション

2. 月間のトラフィック

- 平均PV数: 〇PV/月
- ピーク時のアクセス数: 〇アクセス/秒
- データ転送量: 〇GB/月

3. 現在のコスト

- サーバーリース料: 〇円/月
- 保守費用: 〇円/月
- 電気代: 〇円/月
- 人件費: 〇円/月

Step 2: 移行戦略の選定(1週間)

3つの移行アプローチ

1. リフト&シフト (Lift & Shift)

概要: 既存システムをそのままクラウドに移行

メリット:

  • 移行期間が短い(1〜2ヶ月)
  • 初期コストが低い

デメリット:

  • クラウドのメリットを最大限活用できない

適している企業:

  • まず素早く移行したい
  • 既存システムの改修リスクを避けたい
2. リファクタリング (Refactoring)

概要: クラウドネイティブなアーキテクチャに再設計

メリット:

  • コスト最適化(30〜50%削減)
  • スケーラビリティ向上

デメリット:

  • 開発期間が長い(3〜6ヶ月)
  • 初期コストが高い

適している企業:

  • 長期的なコスト削減を重視
  • システムの抜本的な改善が必要
3. ハイブリッド (Hybrid)

概要: 一部をクラウド、一部をオンプレミスに

メリット:

  • リスク分散
  • 段階的な移行が可能

デメリット:

  • 管理が複雑になる

適している企業:

  • 機密情報を社内で管理したい
  • 段階的にクラウド化を進めたい

Step 3: パイロット移行(2〜4週間)

推奨する移行順序

Phase 1: 非クリティカルなシステム

  • 社内ポータル
  • ファイルサーバー
  • 開発環境

Phase 2: Webサーバー

  • 公式サイト
  • マーケティングサイト

Phase 3: アプリケーションサーバー

  • 業務システム
  • 顧客管理システム

Phase 4: データベースサーバー

  • 最重要システムのDB

Step 4: 本番移行(1〜3ヶ月)

移行の実行計画

【移行タイムライン】

Week 1-2: 環境構築
- Azureアカウント作成
- Virtual Network設定
- セキュリティグループ設定

Week 3-4: データ移行準備
- データバックアップ
- 移行ツールのセットアップ

Week 5-6: 段階的移行
- 非本番環境での動作確認
- 性能テスト

Week 7-8: 本番切り替え
- DNS切り替え
- 24時間監視体制

Week 9-12: 安定化
- 問題の早期発見・対応
- チューニング

Step 5: 継続的な最適化(継続)

月次レビューの実施

確認すべきKPI:

  1. コスト: 予算内か?無駄なリソースはないか?
  2. パフォーマンス: 応答速度は目標値内か?
  3. 可用性: ダウンタイムはあったか?
  4. セキュリティ: インシデントはなかったか?

コスト最適化の7つのテクニック

1. リザーブドインスタンスの活用

通常料金との比較 (Azure Standard_D2s_v3の場合):

プラン月額料金年間コスト割引率
従量課金¥12,000¥144,000-
1年リザーブド¥7,200¥86,40040%割引
3年リザーブド¥4,800¥57,60060%割引

適用条件:

  • 24時間365日稼働するサーバー
  • 最低1年以上の利用予定

2. オートスケーリングの設定

# Azureのオートスケール設定例
properties:
  targetResourceUri: /subscriptions/{subscription-id}/resourceGroups/{resource-group}/providers/Microsoft.Compute/virtualMachineScaleSets/{vmss-name}
  profiles:
    - name: "Auto scale condition"
      capacity:
        minimum: "2"  # 最小インスタンス数
        maximum: "10" # 最大インスタンス数
        default: "2"
      rules:
        - metricTrigger:
            metricName: "Percentage CPU"
            threshold: 70  # CPU使用率70%で scale out
        - scaleAction:
            direction: "Increase"
            value: "1"

効果:

  • 繁忙期: 自動でスケールアウト → 性能を維持
  • 閑散期: 自動でスケールイン → コストを30-50%削減

3. スポットインスタンスの活用

概要: 余剰リソースを格安で利用

割引率: 最大90%割引

適している用途:

  • バッチ処理
  • データ分析
  • 開発・テスト環境

注意点:

  • いつでも停止される可能性がある
  • 本番環境には不向き

4. ストレージクラスの最適化

ストレージクラス用途月額料金/GB適用例
Premium SSD高速アクセス必要¥21DBサーバー
Standard SSD通常の業務¥10Webサーバー
Standard HDD低頻度アクセス¥5バックアップ
Cool Storageアーカイブ¥1.5過去ログ

最適化例:

  • 1TBのバックアップをPremium SSD → Cool Storageに変更
  • 月額¥21,000 → ¥1,500(93%削減

5. 不要なリソースの定期削除

よくある無駄なコスト:

  • 放置された開発環境
  • 未使用のスナップショット
  • 古いバックアップ

自動化スクリプト例:

# 7日間使用していないVMを停止
az vm list --query "[?powerState=='VM running'].{Name:name, RG:resourceGroup}" -o table | while read name rg; do
  last_start=$(az vm show -n $name -g $rg --query "instanceView.statuses[?code=='PowerState/running'].time" -o tsv)
  if [ $(date -d "$last_start" +%s) -lt $(date -d "7 days ago" +%s) ]; then
    az vm deallocate -n $name -g $rg
  fi
done

6. Azure Hybrid Benefit (AHB)の活用

概要: 既存のWindowsライセンスをAzureで利用

割引率: 最大40%割引

適用条件:

  • Windows Server Datacenterライセンス保有
  • ソフトウェアアシュアランス契約中

7. コスト管理ツールの活用

Azure Cost Management:

  • 日次でコスト推移を確認
  • 予算超過時にアラート通知
  • コスト最適化の推奨事項を提示

実際の移行事例

事例1: 製造業C社(従業員80名)

Before:

  • オンプレミスサーバー5台
  • 月間コスト: ¥450,000

移行内容:

  • Azure Virtual Machines (リフト&シフト)
  • Azure Backup導入

After:

  • 月間コスト: ¥280,000(38%削減
  • BCP対策完了(東日本・西日本の2リージョン)

移行期間: 2ヶ月

事例2: IT企業D社(従業員30名)

Before:

  • レンタルサーバー + 一部AWS
  • 月間コスト: ¥200,000

移行内容:

  • 完全AWSに統一(リファクタリング)
  • サーバーレス化(Lambda + DynamoDB)

After:

  • 月間コスト: ¥80,000(60%削減
  • 自動スケーリングで高可用性達成

移行期間: 4ヶ月


よくある質問(FAQ)

Q1: クラウド移行のリスクは?

A: 主なリスクは以下の3つです:

  1. ダウンタイム → 段階的移行で最小化
  2. コスト超過 → 事前のコスト試算と定期レビュー
  3. 性能劣化 → パイロット移行で事前確認

Q2: 移行にどれくらいの期間が必要?

A: システム規模によりますが:

  • 小規模(サーバー1〜3台): 1〜2ヶ月
  • 中規模(サーバー4〜10台): 2〜4ヶ月
  • 大規模(サーバー10台以上): 4〜6ヶ月

Q3: 自社にエンジニアがいなくても移行できる?

A: 可能です。当社のような移行支援サービスを活用することで、技術的な知識がなくてもクラウド移行を実現できます。


まとめ

中小企業がクラウド移行を成功させる5つのポイント:

  1. Azure vs AWS - Office 365利用ならAzure、技術重視ならAWS
  2. 段階的移行 - リフト&シフトから始めて徐々に最適化
  3. コスト最適化 - リザーブドインスタンス、オートスケーリング等を活用
  4. パイロット移行 - 小規模から始めてリスクを最小化
  5. 継続的な改善 - 月次レビューで無駄を排除

重要なのは、「完璧を目指さず、まず始めること」です。


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